初期反射音特性によるオーディトリウムのバルコニー形態の設計法
九州大学工学部建築学科 豊村 敦
◆研究の背景と目的
一般に、バルコニー下の空間は”低音がこもる””窓を通して聴いているような感じがする””響きが足りない”というように定性的には好ましくない音場といわれている。我々研究室ではこれまで、バルコニー下部空間の初期反射音特性および上方からの初期反射音エネルギが“音に包まれた感じ”(auditory envelopment)に与える影響について検討してきた。
そこで本研究では、これまでの結果を踏まえて、
1) 代表的な室内音響指標(SPL,C80,TS,LE)とバルコニー形態との関連を調べる。
2) 初期反射音の方向別特性とバルコニー形態との関連を調べる。
3) 以上で求められた結果と、先の研究で求められたjnd(弁別閾)とを用いて、バルコニー下部空間と客席主空間での“音に包まれた感じ”の差が知覚されないようにするためのバルコニー形態に関する具体的な設計指針を求める。
の3点を目的として研究をめた。
◆研究方法
研究には、コンピュータシミュレーション手法を用いた。解析モデルの基本形態は、Fig.1 に示すようにワンルームタイプとプロセニアムタイプの2種類とし、ワンルームタイプについては、さらに、平面形状が矩形のモデル(type A)と扇形のモデル(type B)の2種類を設定し、各々について客席主空間の天井高HMを3段階に変化させた。プロセニアムタイプのモデルについては、平面形状は矩形のみ(type C)とし、舞台の天井高HSを3段階に変化させた。そして、Fig.2に示すように、客席に受音点をほぼ均等に50点配置した。そして、これらの計9種類の形態モデルごとに、Table 1に示すようにバルコニーの高さHBと深さDBを変化させ、それぞれの受音点におけるインパルス応答を求め、解析を行った。
◆解析結果
SPL,C80 TS,LEに関しては、バルコニーの形の違いによる影響は音圧分布(SPL)には認められるものの、C80,TS,LE には明確には現れなかった。初期反射音の方向別特性に関しては、初期反射音の全エネルギに対する鉛直方向成分の割合(以下ERV)に対してのみ、バルコニーの形の違いによる影響がみられた。そして、ERVとバルコニーの形との関連を調べるため、音源, 受音点, バルコニー先端の3点から幾何学的に定義されるd/hを導入し(Fig.3参照)、ERVを求める次の式を得た。
この式により、9種類の形態ごとに求めた近似曲線をFig.4-1(type A),Fig.4-2(type B),Fig 4-3(type C) にそれぞれ示す。
筆者らはこれまでの聴感実験によって、ERVが0.1から0.4の範囲にある場合のjnd(弁別閾)は0.04〜0.05であることを確認している。Fig.4-1〜3に示した回帰式にこの結果を適用し、バルコニー下において、ERVの低下を有意に知覚できるd/hの範囲を求めた所、type Aで0.66〜0.82、type Bで0.88〜1.0、type Cで0.84〜0.95である。すなわち、バルコニー下において、客席主空間と同等の“音に包まれた感じ”を確保するためには、d/hは上記の値以下となるようにしなければならないということである。
◆まとめ
これらの結果により、バルコニーの高さと深さの比に関する設計上の一つの目安を示すことができたと考えられる。
今回の研究ではオーディトリウムの形態については3種類の形態でのみの研究だったため、今後より詳細な検討が必要である。