卒論

初期反射音特性とオーディトリウムのバルコニー形態の音響設計法


1.研究の目的

本研究室では、音響性状と聴感印象の関係、そしてバルコニー形態と初期反射音との関係について研究してきた。 主な研究の流れをFig.1に示す。
今回の研究の目的は、さらに広範囲のERLについて「音に包まれた感じ」の弁別閾を求めること、そしてコンピュータシミュレーションを用いてオーディトリウムの新たなモデル(type D)についてバルコニーの設計指針を得ることである。

2. 上方からの初期反射音による「音に包まれた感じ」の弁別閾

2.1 実験の方法

実験は、無響室内において、ERVを固定した基準音場とERVを変化させた比較音場との対をランダムに提示し、被験者に「音に包まれた感じ」の強弱を3件法で判断させた。

2.2刺激音場の条件

刺激のインパルス応答は、実際のホールにおいて得られた反射音情報をもとに作成した。ただし、反射音の数・遅れ時間・到来方向は各刺激とも一定とした。そして、ERLとERVが各設定値となるように、反射音の相対レベルを調整した。ERLと基準音場と比較音場のERVの設定値をTable 1に示す。

Table 1 Acoustical condition of stimuli.

ERV
(FIxed test field)

ERV
(Variable comparison field)

ERL=0.1〜 0.4

0.1

0.00〜0.35

0.2

0.05〜0.45

0.3

0.07〜0.48

0.4

0.10〜0.50



2.3実験結果

実験によって得られた有効なデータの各判断の累積確率分布から、M*ller-Urbanの重み付けを行った正規補間法を用いて、上閾値(Lu)および下閾値(Ll)を求め、弁別閾(jnd=(Lu-Ll)/2) を算出した。算出結果をTable 2に示す。

Table 2 Results in experiment.

ERL

jnd

0.1

0.06〜0.08

0.2

0.04〜0.05

0.3

0.06〜0.07

0.4

0.03〜0.05



3.バルコニー下部空間における初期反射音特性とバルコニー形態

3.1解析モデル

過去の解析モデルはワンルームタイプで、さらに平面形状が矩形のもの(type A)と扇形(type B)の2種類と、プロセニアムタイプで平面形状は矩形のもの(type C)であった。さらに今回の研究ではプロセニアムタイプの扇形モデル(type D)を加えた。type Dについては、客席主空間の天井高HMは一律18mとした。舞台の天井高HSは3段階に変化させた。これら4つのモデルの形態をFig.2, Fig.3に示す。

3.2 d2/hの導入と解析結果

これまでバルコニー形態に関して重要であるとされてきたDB/HBとERV,ERL,ERGの関係をみてみると、DB/HBが大きくなるに連れてERVの値のばらつきが大きくなりDB/HBをバルコニー形態の設計指標とするのは不適切であることがわかった。そこで本研究室ではFig.4に示すようなパラメータd2/hを導入した。d2/hとERV,ERL,ERGとの関係を調べた結果バルコニーの存在は初期反射音の横方向成分にほとんど影響を及ぼさないが、鉛直方向成分に対してはその値を著しく低下させる原因となっていることが示された。

3.3 [d2/h]jnd の算出結果

導入したd2/hとERVの関係を定量的に把握するため、非線形最小二乗法を用いて次式(成長曲線)に近似させた。


「音に包まれた感じ」に関する弁別閾0.04〜0.05を回帰式に適用した結果、バルコニー下において「音に包まれた感じ」の低下を有意に知覚できるd2/hの値([d2/h]jnd )を求めることができた。今回type Dについて求めた近似曲線をFig.5に示す。また[d2/h]jnd の算出結果を回帰係数とともにTable 3に示す。


Table 3 Regression coefficient and[d2/h]jnd.


type D HS(m)a1 a2a3a4 a5[d2/h]jnd
6.5-9.02.22216.9570.8822.8250.1030.88
9.2-11.03.59822.5911.6291.4360.0981.29
12.0-13.02.23911.6720.3002.6190.0951.00


4.結論

今回の実験によってERLが0.1,0.2,0.3の場合についてのERVの弁別閾が求められた。また今回シミュレーションを行ったtype Dにおいては0.9〜1.3という値が得られた。以上の結果によって、ERVを用いたバルコニー形態の設計指標の適用範囲がさらに広がったと考える。

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